今回から、新たな店舗事例をご覧頂きます。それは、コーヒー専門店の作図事例です。
最近では、定着したようにも感じるコーヒー専門のチェーン店舗ですが、どのチェーン店にもマニュアルというものがあります。
ですから、作図的にはそれほど難しいものでは有りません。ただ、店舗面積にマニュアルを如何に落とし込むのに時間がかかります。
平面プランが決まれば、後はひたすら試行錯誤しながらマニュアルに沿って作図に専念するだけです。
それでは、汎用性があり、コンパクトにまとめられた平面図事例からスタートしましょう。
売場と厨房がコンパクトにまとめられた平面図事例
この店舗もそうですが、「スターバックス」「タリーズ」などと、今ではなくてはならないコーヒー専門店のひとつですが、後発組と伺っています。
当時は、店舗規模としてはそれほど大きくなく、GMSのような大型商業施設の空きスペースを活用して出店していた記憶があります。
今では、中規模店舗を展開していると聞きますが、私的にはやはり、効率を考えて空きスペースに適した業態と考えます。
上の平面プランを見ていただいても、小スペースで客席が44席と、とてもコンパクトにまとめられていると感じます。
しかし、小さいながらも厨房面積と売り場面積のバランスは、私が思うに良い方だと感じますし、よく考えられているとも言えるでしょう。
今は、全面禁煙か分煙を実施している店舗がほとんどです。
この店舗は、当時(2009年)全面喫煙だったと記憶します。
今では考えられませんね!(笑)それでは次に進みます。
小スペースでも動きやすく考えられた厨房レイアウト
上の作図をご覧ください。
非常に手狭な厨房平面図ですが、効率を一番に考えられた素晴らしいレイアウトだと感じます。
十分なデシャップカウンターも配置され、珈琲豆販売スペースも設けられています。(図面左の部分です)
店舗面積、客数から言えば厨房面積としてはこれで十分だと感じると共に、店員さんの動きのロスも少なくすむでしょう。
ちなみに、ここでのヒントですが、厨房内で店員さんがスムースに動ける導線寸法は、650mm〜700mmといわれています。
そして、この店舗では、徹底したコーヒー販売であって、フード類がないことも功を奏していますね。
最近では、マフィンやその他のベーカーリー商品を販売しているようですが、仮にこの作図事例では、販売台が無いので増設するしかありませんが、効率はきっと悪くなりますね。
店舗設計者は、最初のほとんどがアパレルが多いように感じますが、将来を見据えてこういった飲食の店舗をこなすことは、設計者としての巾が必ず広がります。
厨房関係は、確かにややこしいと感じている人が多い中、率先してこのややこしい店舗をこなすことこそ未来が開けると思います。
尚、厨房機器図面も添付しておきます。
ちょっと見にくくて、申し訳ありませんが、それほど大したものではありませんので参考までとしておいてください。
オリジナルカラーでインパクトのあるファサード立面図
まず、ファサードの立面図からご覧ください。
ファサードは、まさに店の顔であり、その店舗の個性が感じられなければなりません。それには、やはり店頭サインが必要となります。
この店舗の実施設計した頃は、スターバックスをはじめ、コーヒー専門店の出店が激化していた時期です。
競争のためとは言いませんが、この店舗のカラーリングはインパクトがありましたね!
特に凝ったデザインとは言えませんが、クライアントの要請でサインだけを強調するように指示されたことは理解できました。
当時でのサインは、ローコストでボリュームを感じさせる「カルプ文字」は大活躍でした!
デシャップカウンターが際立つ店内展開図
次に店内の展開図に進みます。
このショップも含め、コーヒー専門店などで一番目立たせなければならないのが、デシャップカウンターでしょう。
余談ですが、デシャップとは、英語の「Dish UP」のことで、
ホールとキッチンの狭間にあり、料理が上がってくる場所と言う意味です。
ここでは、注文してからこのデシャップカウンターで、商品を受け取ります。
A展開図の右手に位置していますね。確認できますか?
この手のショップの内装デザインというのは、それぞれの店舗の個性はあるものの、目を引かせるべきデシャップカウンターを除けば、ほとんどが壁面なのです。
ですから、気合いを入れて作図するのは、このデシャップだけだと感じます。
また、作図も必要な機能がびっしり入ってますので、とてもややこしい存在です。おまけに、デザインはある程度のレベルの内容を求められます。
では次に、C・D展開図に進みましょう。
この展開図を見て、何か感じませんか?柱と壁面がやたら目立ってるのを感じませんか?
そうなんです。残りの壁面を演出するっていっても、するところが無いのです。
そして、マニュアルがあるわけですから造作的な収めの知恵はそれほど必要無いでしょう?
むしろべたっとした壁面に、何を飾るかという感性が求められるかもしれません。
この場合は、壁面に取り付けるビジュアルやイラストなどを選別する程度です。
コーヒー専門店だけに限らず、どのような店舗でも設計者は、感性やセンスを求められることが多いことを忘れてはなりません。
デシャップエリアの各カウンター詳細図
さて、店舗の環境図は一通り終わりましたが、今度は各詳細図に進みます。
上の作図は、今回の事例でのデシャップカウンター廻りの図面事例です。確認の為に添付しました。右上のマーキングがタイトルエリアとなります。
私思うに、このデシャップエリアは平面的にも展開的にも非常にコンパクトな設計になっています。
お分かりのように、デシャップエリアだけはカラーリングも明確で、間接照明を施して一点豪華主義さを感じます。
これって良いことだと感じます。このチェーン店はローコストでの施工なので、あまり奇をてらったことは出来ませんが、予算のなかでしっかりとコストパフォーマンスをキープしているようです。
では、それぞれのカウンターをご紹介していきます。
デシャップカウンターとレジカウンター
上の作図は、厨房側から見た状態でカウンターを描いています。ここには多くの機能があります。
返却カウンター、デシャップカウンター、レジ台、それに出入り口のバッタリ戸が所狭しとレイアウトされています。
この後、ご覧いただきますが、バッタリ戸の隣には、なんとコーヒー豆の販売カウンターも設置されているのですよ!
では、A断面図とB断面図の拡大したものをご覧ください。
A断面図は、返却台の部分ですが、すぐ下にシンクがあり、返却されたカップなどをすぐシンクへ入れ、洗浄処理することができます。
B断面図については、デシャップエリアを表しています。商品の受け渡しをするカウンターですね。その下には、台下冷蔵庫が置かれていています。
その台下冷蔵庫の上を活用して、ドリンクのトッピングなどの作業も可能です。
また、客席側には、デシャップカウンター下部に奥行き100mm程のニッチがあり、ディスプレーや商品販売スペースとしても利用できます。(これはよいアイデア!)
次は、C断面図とD断面図の拡大画像です。
C断面図は、カウンター下に脇台が設置されています。脇台は、お客様から見えることは無いので、仕上げはポリ合板を使ってコストを調整しています。
そして、B断面図も同様に客席側には、前述したニッチがあります。その面は、客席側なのでメラミン化粧板を使うようにしました。
D断面図のレジ台は、スライド式の芯出しで構成されています。パソコンやプリンター、筆記用具やメモなどの事務用品を置くようにしました。
シンプルな機能なので、使い勝手はきっと良いはずです。 ただ、レジ台か脇台に、引き出しがひとつあると便利なのでは?とも感じました。
このように、レジカウンターの内部機能は、それぞれの店舗によってかなりの差異を経験してきました。
ただ、今回見ていただいているそれぞれの図面事例は、コーヒー専門店では最低限の機能だと感じます。
ダッチコーヒーカウンター三面図と断面詳細図
このカウンターは、ダッチコーヒーとコーヒーの豆を販売するカウンターです。
ちなみに、ダッチ・コーヒー (Dutch Coffee) とは、湯ではなく、水で抽出するコーヒー、水出しコーヒーのことです。この小さなコーナーもバッタリ戸を境にして、旨く厨房エリアにとけ込んでいます。 一度、平面で確認ください。
それぞれの作図をゆっくり見て頂ければ、ご理解いただけると確信します。
尚、売り場(ホール)と厨房との段差が、それぞれの作図に見受けられましたが、厨房がなぜに床上げを必要とするかは、後記にてお伝えします。
これで、今回のコーヒー専門店の作図事例は終了とします。みなさん、ご理解いただけたでしょうか?
初心者の方には、まだまだ厨房図面なんて描けないよ!って思われている人が少なくないと感じます。しかし、店舗設計を目指すには、仕事の選り好みは出来ません。
なんとか時間を作って、早めにこの図面を習得しても損はしませんよ!ためらっている時間の方が、もったいない!
何かあれば、応援しますので頑張ってください。話は元へ戻して、この狭い厨房を店員さんがめまぐるしく動きます。
繁忙期は凄いでしょうね!
しかし、完璧なマニュアルがある限り、店員さんの動きはきっと効率よくいかされるでしょう。
後記
長々とお付き合いありがとうございました。久々の長い文章は疲れます。
今回のコーヒーチェーン店は当初、この規模の店舗が目立ってましたが、最近では中規模店舗を展開しているようです。
MDの感想としては、コーヒーはそれほど美味しいとはいえませんが、ベローチェ同様に値段は安い!って感じです。低所得者層の老若男女に受けているようです。
また、全面喫煙出来ることも人気の秘密だったと感じます。(今は分煙かな?)しかし、最近ではこのようなコーヒー専門店のチェーン化で、街に出れば必ず存在していますが、味については、千差万別ですね。
さて最後となりましたが、先ほどの床上げの件について少々。
厨房内には配管等の設置で床上げを余儀なくされることがあるのはご存じですよね。
個店や単独店舗場合はの場合は、俗に言う床を「はつる」コトが出来ますが、テナントとなるとかなり厳しいです。
私としても毎回、こういった問題で悩みますが、こればかりは仕方の無いこととあきらめています。
ただ、設計者として段差を出来るだけ少なくするのもテクニックのひとつですので、設備業者さんとの打ち合わせは必須だと思います。
余田和でした。
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